プロローグ

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駅の近くまで来ると、まだ開いている薬局に飛び込んで、のど飴を買う。 少し、喉が痛い。 ひどくならなければいいんだけど。 ひとり暮らしだと、病気の時が一番困る。 それに、今は仕事が忙しくて、休んではいられない。 「相澤(あいざわ)さん?」 聞きなれた声に顔をあげると、同じ課に所属する後輩の滝本(たきもと)君だった。 「今、帰りですか? 女の人がひとりで危ないです」 「私のこと、女だなんて思ったことないくせに」 彼の言葉を軽くかわして、のど飴をレジに持っていこうとすると、滝本君は私からヒョイッと取り上げて、自分のものと一緒にレジに置く。 「いつだって、女だと思ってますよ。今日は、おごりです」 「おごりって……二百五十円よ」 少し気怠かったせいもあるけれど、それ以上言いあう気力もなくて、素直に買ってもらうことにした。
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