僕らの夏は始まらない。

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 高校球児、石川拓也の最後の夏は始まる前から終わっていた。甲子園を目指す権利さえ、彼には与えられなかった。監督が読み上げたベンチ入りのメンバーに彼の名前はない。背番号を渡されていく他の部員達を彼はぼんやりと眺めていた。  ……終わった。いや、やっと終わったと言うべきか。名前を呼ばれずに涙する者もいる中、拓也はそんなことを考えていた。  良くやった方じゃないか。拓也は自分にそう言い聞かせる。野球推薦で入部したわけではない彼が、甲子園常連の強豪校で三年間走りきったのだ。  レギュラーになることのできる奴と自分は違う。入部して早々にそのことに気付いた拓也は、自分に対する評価を止めた。これから大学に進学して就職するにあたって得になるかもしれない。そんな考えで拓也は青春の三年間を駆け抜けた。周りが何と言おうとも、拓也の中ではそういうことになっていた。  「はぁ……」  一日に何度ついているか分からない溜息をつき、拓也はミーティングルームを後にした。自室に戻る者も多い中、拓也が向かったのは室内練習場。まだ誰もいないその場所はやけに広く見える。  毎日室内練習場で居残り練習をする。それは今日も同じだ。例え彼の夏が今日終わったとしても、日々のルーティーンは変わらない。甲子園に行けるとか行けないとかではない。彼はそういう次元で野球をしていない。
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