僕らの夏は始まらない。

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 「くだらないこと言ってないで練習するぞ。まさかユニフォーム姿を見せにだけ来たわけじゃないだろ?」  練習の準備を始めようとする拓也。しかし翔太は動こうとしない。  「残念ながら、今日は練習する気分じゃないんで。拓也さんも一緒にサボりましょうよ」  厭らしく笑う翔太。拓也は準備の手を止めて、異物を見るかの如く翔太を眺める。  「まぁまぁ、今日ぐらい良いじゃないですか。それに俺は拓也さんに用があってわざわざここに来たんです。勝手に練習されたら話が出来なくなるじゃないですか」  何故か拓也は責められていた。翔太は自分中心に世界が回っていると思っているようだ。  「ほら、座ってください」  すでに翔太は人工芝の上に胡坐をかいている。その様子から、自分に拒否権は無いのだろうなと察した拓也は、大人しく対面に腰を下ろした。これじゃあどっちが先輩か分からないですねと笑う翔太に対して、拓也は反論する気力すら失っていた。  翔太がこの野球部に入部してから、何故か彼は拓也に絡み続けている。部員寮は同室。毎日の自主練に付き合わせる。ことあるごとに彼は拓也に話しかけた。余所から見ると心配になる彼の拓也に対する態度も、当人同士では当たり前のものになっていた。
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