僕らの夏は始まらない。

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 「……くだらないんですよ。何もかも」  翔太に纏う空気が一変した。いつになく神妙な面持ちの翔太に拓也は黙ったまま、続きを喋らせる。  「青春だとか、球児の夢とか。甲子園なんて知ったことじゃない。たかが部活動じゃないですか。それなのに後輩、同期、先輩、挙句の果てにはコーチと監督まで俺を通して甲子園を夢見てる。自分一人じゃ叶わないからって、俺の背中に乗っかって勝手に夢見てるんですよ」  翔太は続ける。  「みんな寄って集って俺に気を使って取り入ろうとして。人のことエースだの一番だのって持ち上げて。俺には山崎翔太って名前があるんですよ?」  一息に心情を吐き出した翔太。流石に息が続かなかったのか、大きく息を吐き出して答えを求めるかの如く拓也を睨んだ。機嫌の悪いエースを前にしても、拓也は動じない。  「……で? 何を今更俺にぶちまけてるわけ?」  拓也は翔太を睨み返す。拓也は決して翔太に気を使わない。あくまでも、翔太は拓也にとって後輩なのである。  「そういう答えと態度が返ってくるからです」  翔太は即答する。予想していなかった答えに拓也の目線が揺らいだ。
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