ブレインヒートの秋

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ある季節になると言葉がうまく口から流れない。実は恋人のことで頭が満たされると緊張や焦りのせいで喉頭が震えていない気がしてやまないのだ。よって彼女に関する記憶を書くことにしたい。 彼女と出逢った場所は空港だった。たしか二〇一四年の秋だ。僕は高校二年生だった。 なぜ空港にいたかといえば一週間前に日本にいる母から、せっかく学校が休みなんだから帰ってきてよ、とメールが届いたからだ。一年前の秋には宿題がたくさんあるからと断念した。だからこの年の秋は帰らないという選択肢が残されていなかった。 空港の出国審査場では様々な人種の人達で混雑していた。耳を澄ましてみると英語、中国語、マレー語、インドネシア語、ロシア語等で世間話が交錯している。 そんな時だった。 隣の列のちょうど僕と同じ位置に彼女がいた。ショートヘアと琥珀色の大きな眼が真っ先に僕の顔を赤くし、脳を熱くした。 彼女は前に並んでいる友達(教室で僕の斜め前に座っていた女子)と英語で秋休みをどう過ごすのか話していた。その女子が羨ましかった。彼女と話せたらいくらでも出国審査を待つことができると思った。暑さを感じながらも冷静になって考えた結果、出国審査のゲートを抜けたら彼女に話しかけようと決めた。
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