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彼女はカフェラテを、僕はアイスココアを注文した。
席についてからすぐには会話が始まらなかった。
何を話せば和やかな雰囲気になるのかとお互いに思案をめぐらしていた。
僕は二回だけアイスココアから視線を外して人差し指と中指が取っ手のトンネルに入ったマグカップを見た。
彼女の手の爪はべージュ色をしていた。
「手、綺麗だね」
「あ、これ?」
彼女が手の甲を僕に向けた。
「派手じゃないからすごく綺麗に見える」
僕はお世辞を言ったつもりはなかった。
本心だ。
「ありがとう」
「でもネイルってお金かかりそうだ」
「高くて三万円、安くて三千円かな。私の知る限りでは」
ゼロが一つ増えたぐらいで千円札の枚数が二十七枚増える。
二十七枚の差はどうして生まれるのか。
会社の方針。
店長の性格。
サービス精神の有無。
宣伝のやり方。
挙げるときりがないのでこのくらいにしておこう。
半分は皮肉、半分は冗談のつもりで僕は聞いてみた。
「お金持ってるんだな」
「ここだけの話にしてくれるなら教えてあげてもいいよ。儲ける秘密」
「約束する」
僕は身を乗り出した。
彼女は小声で言う。
「あれしてるの」
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