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夏の終わり、もうすぐ学校の夏休みも終わろうとしていた頃。
蝉しぐれも役目を終えた様に、泣き止んで久しい。
京急電鉄の横浜駅に、1人の男がプラットフォームに降り立った。
男は50代の様に観え、かなり疲れている様子だ。
顔面には薄っすらと、無精髭が生えている。
黒のスーツ上下に、黒のネクタイを締めているのだが半分緩んでいた。
電車は、定刻通りに横浜駅を発車した。
男は振り返る事無く、前に進み始める。
だが、なんとなく虚ろな瞳だ。焦点が合ってない。
横浜駅から外へ出ると、陽が暮れ始め腕時計を眺めた。
午後7時を廻り、暑さの中にも秋風を感じる事が出来た。
男は待ち合わせ場所まで、歩いて行く事にした。
待ち合わせ場所と言っても、駅の東出口だ。
日曜日の夕方、それ程乗客の出入りは多く無い。
男が立っていると、そこに黒のベンツが目の前に停まった。
ベンツを運転していたのは、楓麻里子(かえでまりこ)だった。
麻里子はこちらを見ると、ニッコリ微笑んだ。
男が頷きながら、すかさず助手席のドアを開け乗りこんだ。
「昌彦さん、こんばんわ」
麻里子が挨拶を済ますと、静かに車を発進させた。
男の名前は、三上昌彦(みかみまさひこ)と言った。
三上の職業は、IT企業の社長をしている。
セキュリティシステムの、プログラミングアプリソフトを製作している。
デバイスツールへのマルウェアの侵入をいかに防ぐのか、その対策を全力で取り組んでいた。
何処の中小企業も、セキュリティ対策がかなり甘い為、相当な被害が続出している。
その為にも、万全のセキュリティプログラミングシステムが必要であった。
安全なマルチデータコンテンツファイルを、デバイスに。
誰にでも喜んで貰える、強力なセキュリティアプリソフトを。
三上の会社は、まだ10人程の零細企業だが、自信と埃を持っていた。
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