第1章    横浜湾岸

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夏の終わり、もうすぐ学校の夏休みも終わろうとしていた頃。 蝉しぐれも役目を終えた様に、泣き止んで久しい。 京急電鉄の横浜駅に、1人の男がプラットフォームに降り立った。 男は50代の様に観え、かなり疲れている様子だ。 顔面には薄っすらと、無精髭が生えている。 黒のスーツ上下に、黒のネクタイを締めているのだが半分緩んでいた。 電車は、定刻通りに横浜駅を発車した。 男は振り返る事無く、前に進み始める。 だが、なんとなく虚ろな瞳だ。焦点が合ってない。 横浜駅から外へ出ると、陽が暮れ始め腕時計を眺めた。 午後7時を廻り、暑さの中にも秋風を感じる事が出来た。 男は待ち合わせ場所まで、歩いて行く事にした。 待ち合わせ場所と言っても、駅の東出口だ。 日曜日の夕方、それ程乗客の出入りは多く無い。 男が立っていると、そこに黒のベンツが目の前に停まった。 ベンツを運転していたのは、楓麻里子(かえでまりこ)だった。 麻里子はこちらを見ると、ニッコリ微笑んだ。 男が頷きながら、すかさず助手席のドアを開け乗りこんだ。 「昌彦さん、こんばんわ」 麻里子が挨拶を済ますと、静かに車を発進させた。 男の名前は、三上昌彦(みかみまさひこ)と言った。 三上の職業は、IT企業の社長をしている。 セキュリティシステムの、プログラミングアプリソフトを製作している。 デバイスツールへのマルウェアの侵入をいかに防ぐのか、その対策を全力で取り組んでいた。 何処の中小企業も、セキュリティ対策がかなり甘い為、相当な被害が続出している。 その為にも、万全のセキュリティプログラミングシステムが必要であった。 安全なマルチデータコンテンツファイルを、デバイスに。 誰にでも喜んで貰える、強力なセキュリティアプリソフトを。 三上の会社は、まだ10人程の零細企業だが、自信と埃を持っていた。
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