Quiet place

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 ついさっき、とても珍しく地震が起きた。  けれども、僕は構わずに中学生生活最後の夏休みを図書室で楽しんでいる。  その子は足音もなく近付いて、机を挟み、僕の前に現れた。 「はじめまして。あなたがミライさんですか?」  僕を呼ぶ声に、地震くらいでは驚かない僕の体が、びくりと動揺を示す。僕は、かじりつくように読んでいた本から恐る恐る顔を上げて相手を確認し、そこで初めてその子の存在に気が付いた。  女子だ!リアルの女子だ!!女子なんかが僕に何の用件があるというのだ!?  自分でも情けないと思うけれど、ビクビクしながらその子の問いに短く返事をした。 「あは!やっぱり!前の席、失礼しますね?」  何がやっぱりなんだよ!失礼するなよ!!向かいの席に座って何をする気だよ!!!!  そう思いつつも言葉は口から出なかった。出せなかった。当然だ、僕のようなオタクは同類ならまだしも、一般女子と会話するなんて高等テクニックを持ち合わせてはいない。だから、その子の失礼しますね、の問いに答えられず、また僕は本に集中しようと、顔を隠すように本へ視線を下ろしたのだ。 「あ、座っていいのですね?ありがとうございます!あの、何を読まれているのですか?」  良くないよ!!なに座っているんだよ!!首を縦に振ったわけじゃない。視線を下ろしただけだ。頷いたように見えたのかもしれないけれど、君と話す気なんて少しもないのだよ。  そしてこのとき、僕は閃いた。相手に拒絶反応を示すアクション、それをしないのが悪いのだと。ならばこうしよう。本を覗き込むのではなく、本を自分の顔の前に持って来ればいいのだ。シャッターを下ろすように本で壁を作ればいい。  僕は素早く本を持ち上げる。 「・・・・『空想科学の将来』・・ですか。どんな内容なのですか?」  表紙を読まれたぁ!!僕のバカ野郎ぅ!!!!  まるで、こちらから内容を聞いて欲しいかのような展開に動揺が極まった僕は、ヤケクソになって本の内容を話した。それはそれは、マシンガンのように言葉をその子に放ち続ける。
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