第1章

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 私は、人様には言えないが殺し屋をしている。それも狙撃専門だ。自分で言うのもなんだが腕は悪くない。まあ、この業界で腕が悪かったら生きていけないが...。 2日前にやっかいな事件を片付けたと思ったらまた、次の依頼だ。世間様は漫画のようなアクション全開の世界を夢想しているが現実は厳しい、追い立てられるようにやってくる仕事を一つ一つこなしていかなければならない。この世界は信用第一だ。 というわけで今回は依頼人と待ち合わせの約束だ。情報屋のヤスの話だと奴が今まで生きてきた中で一番の美人だそうだ。ヤスは根っからのワルではないが少し誇大妄想の気がある。私はいつも通りヤスの話を3割引きにして待った。 そんなとりとめのない事を考えながら待っているが依頼人はなかなかやってこない。遅い。コーヒーも生温かくなってきたし、右手にぶら下げているタバコも手持ち無沙汰だ。 もういい、義理は果たした。帰ろうかと思った矢先、彼女はやってきた。どうやってヤスをとっちめてやろうかと考えていた私の頭の中はたちまちのうちに彼女でいっぱいになった。ヤスとの腐れ縁も2年程になるがはじめてもたらされた正確な情報であった。待たせるのは美人の特権とばかりにこちらにやってくる。目鼻立ちはすっきりして、スカートの下からすらりと長い脚が見える。ほぼ完璧な美人であった。 ほぼと言ったのは、目の怒りを抑えるため目が引きつっており、そのことがおそらく彼女本来の美貌をわずかに損ねているだろうからだ。 「情報屋のヤスさんから聞いたのですけれど。」 「まあ、立ち話も何ですのでどうぞお掛け下さい。」 彼女はゆっくりと座った。彼女が心の中で飼っているケモノが暴れださないように。 「依頼の件は聞いてますか?」 「はい、標的は恋人の方とか...。」 「ええ、この人です。」 昔だったら写真だが時代もかわった。彼女はおもむろにスマートフォンを取り出し器用に画像をタップした。 私の稼業もかつての写真のように古くなっているかもしれない。いや、もうカビでも生えているだろう。 画像の男は彼女とつり合いを取るために生まれてきたような美男子だった。 「彼ですね。」 「ええ、ただしもう彼ではありません。」 画像の男は他の女に走ってしまったそうだ。この恨みをぜひ晴らしたいとのことだった。
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