ふぁっきゅーぞんび

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 「ねえねえ、キサちゃん」  「なんだよ、コノミ」  一軒家の屋根の上。肩の上で茶髪を揺らしながら一人の少女。隣に腰かける長い黒髪の少女に呼びかける。  「私たちなんでここにいるんだっけ」  言葉かけられた少女が無言で応える。  「キサちゃん無視しないでよー」  はあ、と。生体的風がふるりと流動。  「まあ、それはあれだな。一言で言うと、生きる為?」  屋根の縁でゆらゆらと。両足を交互に揺らして少女らは空を仰ぐ。  「ふつー逃げ込むならショッピングモールとかじゃない?」  「前にモールで死にかけたじゃん。駄目駄目、ああいうとこはあいつら沢山いるって。電気止まって暗いから」  そもそも、と。言葉は続く。  「あれだろー、お前が寄り道しようとするからこうなったんじゃないか」  あーうー、と。耳をふさぐ茶髪の少女は目も閉じる。  あーうーあー、としばらく経過。  「ってことは悪いのはあいつらだね」  びしり、と。指さされた先は下。道路。人影。  「ゾンビめ! くらえ!」  ポケットから取り出したる小石を投擲。ヒット。ヘッドショット。  くるりくるり、と周りを見回す視線はやがて屋根の上に。  「ばか、やめろって。集まってくるじゃんか」  ぽかり、と。こちらにもヘッドショット。ショット? ヒット。  「どうせ登ってこれないからいいじゃんかー」  玄関も窓も締め切ってるし、と茶髪の少女。  「それでもなんか嫌だろ」  ため息が黒髪をさらりと揺らした。  がうあー、と。二人は聞き慣れたゾンビの呻き声をそれぞれの表情で吟味した。  二〇何年かの、何月かの、何日か。今日も少女たちは壊れた世界を生き延びた。
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