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『たかしへ。いい加減部屋から出て来てください。』
部屋の前に置かれた晩飯。
その横に置かれた手紙をそっと閉じる。
我が家の今日の晩飯はカレー。
ただしカボチャ入り。
ガボチャ入りのカレーなどもはやカレーではない。
しかし例えカレーにガボチャや納豆が入っていようと俺にはどうすることもできない。
これを食べなければ生きていけないという事は純然たる事実であるのだから。
ニートには晩飯を選ぶ権利すらないのだ。
小さくため息をつきながら晩飯を持って部屋へ入った。
めったにカーテンなど開けない俺の部屋は基本的に薄暗い。
その部屋の中で1台のパソコンだけが唯一明かりを灯している。
カレーを頬張りながらそのパソコンへ向かい、ヘッドフォンを装着した。
今や生活の一部となってしまった某FPS。
と言うよりもはや生活の中心である。
カレーの味など感じる暇などない。
ただひたすらに敵の頭にエイムを運ぶ作業を延々と繰り返す。
このFPSをやり始めて早5年。
既にこのゲームでの強さは多くのプレイヤーから頭ひとつ抜けていると言えよう。
「やったぜ。」
流石は俺である。
あっという間にフラグトップになってしまった。
『You-win』の文字がデカデカと画面に表示され、愉悦に浸る。
この優越感。
現実では決して味わえないこの快感こそが俺の生き甲斐なのだ。
これだから止められない。
「…。」
時計を見ると針は00:30を回っている。
流石にこの時間となるとリビングには誰もいない。
引きニートの身の上、家族と顔を合わせるのはあまり気持ち良いものではない。
嫌気がさすほどに重い期待を背負わされて育てられた為か、いざ働く歳になった息子がニートをしていると言う事実に、家族の当たりはかなり厳しい。
まるで家の面汚しとでも言うような腫れ物扱いだ。
客観的に見れば仕方のない事なのだろうが。
だからなるべく家族とは会いたく無い。
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