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「わかった。じゃあ、待ってるね」
『電話、真由美からだったのか』
「もう少しで着くそうよ」
『そうか。それよりも、珈琲が冷めてしまった。熱いのを入れ直してくれないか』
「インスタントなんだから。お湯も、ポットに入ってるし。待ってないで、自分ですればいいじゃないですか」
『出来ないから、頼んでるんだ』
「本当に無精よね。ほらまたタバコを吸う。お医者様から体に良くないって言われてるでしょう」
『今さら…』
「娘たちの所は禁煙ですからね」
『だから今の内に吸っておくんだよ。そんなことより荷物はできてるのか?』
「あらかた送っちゃいましたから」
『そうか……この家の後の物は全部、
捨てられるんだろうな』
「そりゃそうでしょう。こんなに古い家具を持って、娘の家には行けませんよ」
『お前は……淋しくないのか。あの箪笥なんて、嫁入り道具だろう』
「もう使い物になりません」
『嫁いで何年になるんだったかな?』
「今年でダイヤモンド婚だなあって、去年からあなたが言ってたでしょう。忘れたんですか」
『そうだったか。俺が21で、お前が18だったな。するとこの家は親父の代に建てたから、もう築80年になるのか』
「それは悲鳴もあげますよ」
『ここも空家になるんだな…』
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