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『これ、あげます。』
彼の程よく低い、耳から入って心臓に優しく突き刺さる声が脳裏に過る。
カサリ
手に持つ彼に貰った、ビスケット。
小さな透明の包装がされた一枚のビスケット。
彼と初めて会話したのは、今年の春。
私が務めている私立高校に、新しい数学教師としてやって来た春。
『初めまして、今年度からこの学校で数学を担当します。宜しくお願いします。』
私立高校だから毎年あまり変わり映えしない教師の面子。
それに、昔から居るある程度歳を重ねた人ばかりの中で、ついこの前まで大学生だった彼はかなり若く、そして爽やかに見えた。
顔立ちも結構整っているから、この学校の女は教師も生徒も皆喜んだ。
私も例外ではなく、ああ、若くて爽やかな人がやって来たなあ。と少し嬉しかった。
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