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「あれ?また切ったの?」
あれからまた時間は過ぎ、ジメっとした梅雨になった。
外は雨がザーザーと降っていて、気温も少し低い。
そんな今日、出勤して保健室の準備をしていた時、
彼が再びやって来た。
「いえ、今度は違いますよ。」
「そうなの?」
「ええ、今日はタオルを借りに来ました。」
「あら本当だ、びしょ濡れじゃないの。」
入って来た彼は、頭から肩、足とびしょ濡れだった。
「車で来たせいで、傘忘れちゃって。車から校舎まで結構距離があるの忘れてました。」
「そう、じゃあはいコレ。」
彼は少し抜けているのかもしれない。と、考えながら彼に白いバスタオルを渡す。
「スーツ乾かす?」
「あ!良いですか?」
「ええ。」
「ズボンはそんなに濡れていないので、ジャケットだけお願いします。」
彼から濡れたスーツのジャケットを受け取り、ハンガーに掛けて室内干し用の竿に掛ける。
ふんわりと少し甘い彼の匂いと、雨の匂いがした。
「あ、コレあげます。」
「また?」
「え!もしかしてビスケット嫌いですか?」
「ううん、嫌いじゃないけど。」
「じゃあ、どうぞ!コレは濡れてないんで。」
思い出したように、彼は掛けたジャケットのポケットを漁り、前と同じビスケットを私に渡した。
「ありがとう。」
「いえ!じゃあまた帰りに取りに来ますね。」
「わかったわ。」
彼はバスタオルを私に返して、ペコリと頭を下げて保健室から出て行った。
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