9人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
竹が目の前に迫っていた。
あの瞬間から全てがスローモーションに見えている。
俺は確か下校中、突然足下に空いた穴に落ちたんじゃなかったっけ。あー、これがシンクホールか。なんて考えてたとこまでは覚えてる。
しかし今は何だ。自分は地面に座り込んでいる姿勢だし折れて倒れた竹が目の前に迫っていた。
ぺちん、と顔に竹がぶつかる。
ん? 痛くないな。思ったより軽いんだな竹って。まあ中身空っぽだしな。
竹を片手で除けて周りを見た。下には柔らかい草がびっしり生えてるし、空を見上げれば青空に太陽が浮かんでる。地底の世界にしてはやけに明るいぞ。穴なんかどこにもない。ただし見慣れた通学路でもない。
これはまさか異世界に召喚とかいうやつ?
セオリーだと俺がチートで最強の戦士だか勇者だかになって、ハーレム作って魔王達をバッサバッサとなぎ倒して無双するんだろ。
「いやいやいやいやいや、そんな中二病みたいな設定嬉しくねーわ」
あ、だから竹に当たったくらいじゃ痛くも痒くもないし片手でどけられたのか。第一のチートは不死身の体と怪力といったところか?
「おう兄ちゃん、大丈夫か?」
「お、おう」
いつの間にか男の子が俺の顔をのぞき込んでいる。
中学生くらいだろうか、だけど明るい髪の色をしている。
その子が着ているものは明らかに現代日本のそれではない。和服をアレンジしたような感じ。いわゆる和風ファンタジーってジャンルだな。どことなくニンジャという感じもする。
というか、言葉通じるじゃん。
「何か見慣れない恰好をしているのう? 別の大陸からでも来たのか?」
「うへぇ……」
「……何じゃ、その不満そうな顔は?」
子供のくせにじじい口調かよ。転生とか神様が子供の姿をしてるとかそういうやつ? 中二病をくすぐるネタかもしんない。まじ勘弁してくれ。
「んで、俺はこの世界で何をすればいいんですか?」
「知らんわ」
少年は吐き捨てた。あれ、俺はお呼びでない?
最初のコメントを投稿しよう!