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家に着くとこっそり勝手口に廻ってみた。何だかテレビで見たアニメの怪盗のような錯覚をしながら、一歩一歩慎重に進んだ。
勝手口にカギはしてなかった。母親が居る時はいつもしていないのだ。
不用心だと父親が言ったこともあったが、母親の癖は直らなかった。
「静かに……静かに……」
物音を立てないようにそっと歩き、靴を脱いで台所へとたどり着いた時、人の怒鳴り声が響いた。
「お前……この俺を馬鹿にしやがって!」
「何よ!貴方が放ったらかしにしたんじゃない!」
「すみません……すみませんっ!」
声の主は父親と母親の様だった。ひたすら謝っているのはお客さんなのだろうか?
バタバタと足音が響き、私は慌てて妹の手を引いて勝手口の外に逃げ出した。
私はそっと隠れる様にして中の様子を覗いて見た。
何が起きているのかは分からないが、父親が台所に入って来てギラリと光る物を取り出したのだ。
チラリと見えた顔は修羅の様で、私は余りの怖さに動けなくなっていた。
いつも見る父親の顔は優しかった。絵を描いて見せた時も、頭を撫でて誉めてくれた。
忙しい父親だが、私達に取っては優しく楽しい父親だったのだ。
その父親が本気で怒り、何かが起きそうな気配がしていた。
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