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それは遠く秦国がこの大中国をまとめようとしておりました頃。
狼声王と恐れられ、敬われておりました秦王さまが、遥かなる長城を築かれようとされ始めました、ちょうどその頃でございます。
長江のほとりの豊かな郷に、李家という古くからある郷主がおられまして、そこに、2人の姉妹姫がございました。
姉姫の名を銀娘蛾、妹姫の名を、金娘蛾。
姉姫はとても美しく、とても賢しい。妹姫はそれなりに美しいが、しかしとびきりに優しい。
いずれも李君、自慢の姫君たちであったのでございます。
年老いた李君はその財の一部を等しく分け与え、自らにふさわしい婿をとるよう二人の姫君に申し渡されました。
数々の、玻璃の玉、瑠璃の玉、珊瑚に真珠。金色に光る絹、銀色の梁で造った大きな屋敷に楼閣。豊かな実りを支える広大な田畑に勤勉な民草。
これらのものを、綺麗に同じ量、2人の愛おしい姫君らに分け与え、それぞれに婿を取り、より良い夫を迎えた者を次の郷の主としようとのご深慮でございます。
妹姫の金娘蛾は自分に与えられたものを素直に喜びましたが。
……しかし、それは賢い姉姫の銀娘蛾の目には、妹のそれが、その身に遥かに過ぎたるものに見え、父君の甘さに、いささかの苛立ちすら覚えておいでだったのでございました。
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とにもかくにも、この姉姫は賢い姫で。
例えば秦王さまから長城建設のための寄進をとさらなる徴収がございましたおりも、聖賢孔子の言をもって故事を揚げ、
「斯様(かよう)に、『苛政は虎よりも猛なり』と申しますが、ご使者さまのお考えは如何」
と、その美しさで酒を勧める傍らで、女だてらにご使者さまを正面から論破をし、事なきを得たというほどの剛の者。
そののち、この銀娘蛾の賢いやりようがアチコチに喧伝されて、どこの郷でも同じように応えるようになり、後に腹をおたてになった秦王さまが、首都咸陽にて、聖賢の本を一斉に焼き捨て、四六〇人をも儒家を生き埋めにされたというあの惨いご処罰に繋がったのだとか、イヤ、そうではないとか。
……マァ、真偽はどうといたしまして、そのようなコトもまことしやかに囁かれるような御方でございました。
ですので、待望の男子はもう臨めなくても、李君はこの才女の姉姫をたいそう頼もしく思っておいでで。郷の様々もこの姉姫に諮るほど。
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