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良太にはそれが佳代だとすぐにわかった。
良太は、佳代に近づき笑顔で声をかける
「久しぶりだね、佳代ごめんよ。大丈夫だったかい。手紙をもらって逢いに来たよ」良太が佳代の傍に来ると佳代はにやりと薄気味悪い笑みを浮かべた。
それを見た良太は背筋に冷たいものが走るのを感じ、手にねっとりとした汗を握っていた。
薄暗い街灯の光で、佳代が頭から血を流しながら良太を睨んでいるのが分かった。
良太はそれを見て驚き、恐怖に顔を引きつらせていた。
「佳代。ごめん。悪気はなかったんだ。許してくれ」と震える声を絞り出していた。
しんと静まり返った駅のホームで何処からか赤ちゃんの泣き声がきこえてきた。
良太の傍にゆっくりと近づいてくる佳代、頭から流れる血は頬を伝い、口元へと流れくると唇を真っ赤に染め上げている。
白いワンピースの下の所が真っ赤に染まり広がり出している。
良太は、あまりの恐怖に腰を抜かしてしまい、その場に尻餅をついてしまった。
そして、
佳代はゆっくりとしかし確実に良太の真上に覆いかぶさるように抱き付いて来る。
そして良太の耳元で囁く「良太待っていたのよ。あなたの赤ちゃんが私のお腹の中にいるの。さあ、一緒に行きましょう」
良太は佳代から逃れようと必死に起き上がろうとしても起き上がれなかった。逃げる事も出来ず佳代に抱きつかれたまま目は大きく開き佳代の顔を凝視している。
やはり佳代は死んでいたんだ。俺の子を身ごもった佳代を俺が殺したんだ。
良太の頭の中は恐怖と後悔の念がぐるぐるとめぐっていた。
恐怖で気がおかしくなりそうな良太。心の中では死にたくないと叫んでいる。
佳代は愛しい良太を抱きしめると血で真っ赤に染まっている口元を大きく釣り上げて満足げな笑みを浮かべた。
そして、次の列車が出発する時に佳代は良太を抱きかかえたまま列車の前に飛び込んだ。
誰もいないホームで列車の運転手には良太が飛び込み自殺をしている様に見えた。
その後、地元の人々は、良太が佳代の後を追って自殺をしたんだと噂していた。
終わり
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