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1、帰ってきた太郎
「なんだこれ。仙豆か」
どんな宝が入っているかと期待していた玉手箱には、たった一粒の仙豆が入ってるだけだった。
「ちぇっ、開けるなとかもったいつけといて、これだけかよ。あの亀女ケチだねぇ」
さて、これからどうしたものか。
太郎は腕組みをして考えた。
さっき訊ねた老人(太郎の方がじつは年上になるが)によると、今は竜宮城に行ったあの日から、300年もの月日が経っているらしい。
こちらは、ほんの3年のつもりだったのに、周りの景色はすっかり変わり、知り合いは誰もいなかった。
年老いた両親に会いたくて帰ってきたのに、それは到底叶わない望みになった。
両親はあの日突然いなくなった太郎を心配しただろうか。
最後はどんなふうにして亡くなったのだろうか。
太郎の心は切なく痛んだ。
だがしかし、郷愁にひたってばかりいられない。
これからいったいどうしよう。
食べる物は?住むところは?
もう一度、漁師を始めようか。だが自信がない。
3年も遊んで暮らしてたんだ。今さら真面目に働けるだろうか。
「あーこんなことなら竜宮城にいればよかったな」
と、つぶやいて、いやいやと思い直す。
あのまま竜宮城にいても生き地獄だっただろう。
最初の一年は楽しかった。
宴は頻繁に行われ、働きづめの日々から解放され、衣食住不自由なく過ごせてほんとに天国だった。
乙姫との結婚もあの時はこんな美女と結婚できてラッキーと思った。
が、所詮あの女の外見は幻術だったのだ。
月日が経つにつれ、乙姫は人間の姿でいることを放棄し、本来の亀の姿でいることが多くなった。
当然、亀にその気など起きるはずもないのに、舅は孫はまだかの繰り返し。
そのうち、宴など開かれなくなり、太郎には伝統と責任だけが重い、負債だらけの竜宮城の運営を期待されるようになった。
一介の漁師だった太郎に、竜宮城の城主など務まるわけがない。
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