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2、村の疫病
太郎が秀右衛門に最初に連れてこられたのは、集落が見渡せる物見櫓だった。
随分変わったと思っていた故郷の景色だったが、ここから見渡すと太郎が知っている景色とさほど変わっていないような気がした。
「ここからは集落全体が見渡せます。太郎さん、三幸山をご存じないでしょうか?」
「三幸山?さあ、聞いたことないな…」
太郎がくびをひねると、秀右衛門が突然太郎の手を取り頭を下げた。
「お願いです!私に三幸山を教えてください。そしてどうか、どうか村を疫病から救ってください!」
「…疫病?」
太郎が聞き返すと、秀右衛門は伏目がちに、語り出した。
「今から数年前のことです。最初に、私の父が高熱を出して倒れました。熱の後、体には発疹が出て、そのまま息を引き取りました。
それからです。父と同じような症状で、亡くなる者が続出したのです。歴史を紐解いたところ、300年前にも同じような疫病が流行ったと。
そしてその時は、三幸山の神様にお供えをしたらぴたりと疫病は止んだ、とありました」
「300年前?」
「そうです。あなたが暮らしていた頃です。私たちは近辺の山々に祈りとお供えを捧げました。しかし、病がなくなることはありません。
病で亡くなる者、病を避けて集落を出る者、人は大勢減り、今では数年前の三分の一ほどになってしまってます。
太郎さん、どうか村をお助けください。私に三幸山を教えてください」
懇願しなおも頭を下げる秀右衛門に、太郎は慌てて首をふった。
「そんなこと言われても、三幸山なんて、わし知らんぞ。そんな疫病も見たことないし…」
「この集落には、疫病と同じ頃に竜宮城に連れて行かれた男の言い伝えがあります。あなたがこうして戻って来られたのもきっと、何か所以あってのこと。
私にはあなたが村を救うためにきてくれた思えて仕方ない」
真剣な目をした秀右衛門に困惑しながら、太郎は物見櫓から集落を見渡した。
北に山々が連なり、南に海が広がっているこの集落の地形は、昔から変わらないように思えた。しかし、三幸山など聞いたこともない。
困った。困ったぞ。
「お兄さま、お戻りでしたか」
「おお、千代か。太郎さんをお連れした。あの竜宮城に行った浦島太郎さんだ」
「まあ、まさかあの言い伝えの?」
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