サムシングブルー

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 呆れた様に言って、ラン子ママは水割りを呷る。 「でもね、ドタキャンはタケちゃんのほうが多いじゃないの。そうだ! アタシ、タケちゃんに一言モノモウシタカッタのよッ!」  ラン子ママが俺の肩を掴んで、思い切りグラグラと揺らした。 「何?」 「タケちゃんさあ。うちの店をご贔屓にしてくださるのはありがたいんだけど、ミユキちゃんをゲイバーで一人で待たせちゃダメよう」 「美幸(よしゆき)がどうかした?」 「どうかしたも何も、この前、タケちゃん、残業でうちの店に来れなくなったことがあったでしょ?」  ああ、あれは確かに美幸に悪いことをしたな。だって二時間も待たせた挙句に結局、徹夜決定になってしまったんだから。 「顔には出さなかったけれどミユキちゃん、淋しそうで。そしたら、まあ、店でミユキちゃんの様子を窺っていたハイエナどもが一斉にロックオンよ。ダメなのよ、ああいう人待ち憂い顔の儚い美人って」  それって、もしかして美幸を狙う奴らがいたってことかっ? 「その日はタクミも休みだったし、アタシも気をつけてはいたんだけれど、ちょっと目を離した隙に次から次へとハイエナどもがミユキちゃんに声をかけてきて。ほら、ミユキちゃんもゲイバーなんて慣れてないから人あしらいが出来ないじゃない? とうとう、三人組のいかにもワンナイトを求めてるって奴らに囲まれちゃって」  ――何だとおッ!! 「ッ! それでっ!?」  かぶりつくように聞いた俺にラン子ママはフフフンッ、と鼻で嗤うと、 「あらあ? 恋人を放っておいて良くそんな態度を取れるわねえ?」  好きで放っておいてる訳じゃねえッ!  思わずラン子ママを睨みつけてしまう。  おお、コワイ、とラン子ママが大袈裟に両手で自分の体を抱くと、 「大丈夫よ。ちょうど、タクミがキヨちゃんと店に飲みに来てくれたから、キヨちゃんにお願いして助けてもらったわ」  俺は、ホッと胸を撫でおろした。あの二人が助けてくれたのか。  タクミさんはラン子ママのゲイバーのバーテンダーだ。  キヨちゃんはタクミさんの年下の恋人で、昔、空手をやっていたらしく普段は爽やかな好青年なのに怒るとかなりえげつない気迫を醸し出す。  二人揃って背も高くてガタイが良いから、あの二人に睨まれると結構な迫力だろう。
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