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放課後の放送
目の前のマイクに向かって語りかける。
用事のない人は速やかに帰宅するように。
毎日流れる校内放送。今日の当番はアタシ。
お昼の放送も放課後の放送も、毎日毎日当番制で回って来るし、まともに聞いている人なんてほとんどいない。
でもアタシはこれがやりたくて放送部に入った。
将来的にアナウンサーや声優なんて、とてもじゃないけど目指せないのは判ってる。だからせめて今だけ、アナウンサー気分に浸ってみたい。
うんと気取ってアナウンスを終えた後、マイクをオフにして椅子に座った。
ウチの学校の伝統で、放課後の帰宅を促す放送は、同じ内容を三十分間隔で二度繰り返す。
一度目が今だから次の放送は三十分後。放送部員はそれまで部室で待機。
今はテスト期間中だから、わざわざ居残りたがる人間はほとんどいない。何か用事があったとしても、三十分もあればたいてい終わって、二度目の放送はますます誰の耳にも入らない。
だから、居残ってまでするのは面倒って声が多いけど、アタシは待たされるこの時間も好き。
オフにしたマイクの前に、テレビで見るアナウンサーのように座る。
一人きりの時にはいつもするアナウンサーごっこ。さも、カメラがそこにあるかのように微笑み、おじぎをして、完全になり切ってマイクに向かう。
いつもは穏やかに原稿を読むフリで、クラスであったことなんかを喋ってるんだけど、今日は臨時ニュースっぽくいこう。
「ここで臨時ニュースです。2年3組の川村多香子さんが、同じ3組の榊原和人くんに好意があることを表明いたしました」
…なんてね。
誰にも言ってない片思いを、放送室の中だけの秘密として語ってみる。
我ながら馬鹿なことをしてるなぁ。でも、これが放送部員の醍醐味だなんて、こっそり思ってるんだよね。
さて、そろそろ二度目の放送の時間だ。
マイクをオンにして…え? あれ? これもうすでに電源が入ってる…。
え? え? え?
じゃあ何?
さっきのあれ、流れたの? 学校中に?!
眼の前が真っ暗になった。そんなアタシの耳にノック音が響く。
バカな放送をしたから先生が叱りに来た。そう思い、身構えて扉を見たアタシの視界に意外な人物が映った。
「榊原くん…?」
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