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どうしてまだ学校にいるの? 部活がないからとっくに帰ってる筈…あ、今日、日直。
本人を目の前にして、頭の中でぐるぐると『どうしよう』という気持ちが回る。
ほとんど人はいないとはいえ、全校放送だから、居残っている人達には全部聞こえてしまった。そこに自分の名前を上げられるなんて、絶対嫌に決まっている。
榊原くんはそれに文句を言いに来たんだ。
近づいてくる。…怒鳴られるのかな? もしかして、叩かれたりとかもするの? でも、そのくらいのことをアタシはした。
「川村…それ、放送流れるようになってんの?」
思ってもいないことを聞かれ、アタシはこくりとうなずいた。
榊原くんがマイクに近づく。大きく息を吸う。そして叫んだ。
「臨時ニュース追加。榊原和人も川村多香子さんに好意を持っていたことが判明しました。二人は晴れて両想いです」
あっけに取られているアタシの前でそう口にすると、榊原くんはこっちを見てにっと笑った。その上で茶化すように続ける。
「現場からは以上です。校内に残っている皆さん、…えーっと、何だっけ?」
榊原くんの言葉を受け、アタシはいつもの帰宅を促す決まり文句で放送を終えた。
…この後、放送を聞いてかけつけた担任&顧問の先生に、二人してこっぴどく叱られたし、少ないなりに居残っていた人達の口から噂が広まり、アタシと榊原くんは学校中のひやかし対象になったけれど、そんなことはどうでもよかった。
この件がきっかけで公認カップルとして扱われるようになったアタシ達は、今までほとんど関わらなかったのか嘘のようにあれこれ話をするようになった。その中でお互いの夢なんかも語り合い、アタシは榊原くんに背中を押される形で、夢のまた夢だと思っていたアナウンサーを本気で目指すようになった。
「川村の声ってよく透るし、滑舌もいい。アナウンサー向いてると思うから、最初から諦めずに挑戦してみろよ」
そう言ってくれる彼に励まされ、だったらと、その道を目指してあれこれ努力を始めた。
放課後。当番でこもる放送部。もう真似事はしないけれど、そっとマイクに向き直り、大好きな彼に心の中でありがとうと語りかける。
そしてアタシは、今日の帰宅放送のためにマイクの電源をオンにした。
放課後の放送…完
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