入院

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入院

 盲腸で入院した。  痛いことは痛いが手術自体はたいしたものではなく、術後の経過も良好だ。ただ、病院のベッドの都合で重篤患者のエリアに入院することになったため、家族であっても病室へは立ち入らせないでくれと通達された。  最近の盲腸は、切らずに治したり手術をしても日帰りできたりの場合もあるが、俺は腹膜炎を起こしかけていたとかで、入院期間はおよそ半月と言われていた。  その間、見舞いもなしだなんて退屈この上ないが、もっと容体の悪い患者さんのためだ。仕方がない。  退屈なのはどうしようもないが、日頃忙しかったから、ここでたっぷり休んでおこう。  そんなふうに考え、ごろごろするだけの日々を過ごしていたのだが、何だか最近やけにだるい。  寝てばかりで、体がなまりすぎているからそう感じるのだろうと思っていたけれど、あからさまに具合が悪くなっていく。  手術は成功した筈だ。なのにどうしてこんなに体調が悪いんだ?  重篤患者のいる部屋だと言われてるとげ、まさか何かの伝染病が蔓延してるとかじゃ…いや、いくらなんでもそれはないか。  だとしたら、この具合の悪さは何なのだろう。  もしかして、腹膜炎というのは偽りで、本当はもっととんでもない病気なんじゃないだろうか。  考えれば考える程不安が増して、検診のたびに医師や看護師に不調を訴え、質問を向けたのだが、答えはいつも一緒だった。俺の病気は腹膜炎で、もう一週間と経たずに退院できる、と。  でも、そんな筈はない。自分の体が弱っていくのは自分が誰より判っている。  具合は相当悪い。こんなで退院なんてできる筈がない。  だけど訴えは聞き入れられず、ついに退院予定日となった。  朝からぐったりとベッドに沈み込み、時折込み上げてくる苦痛に耐える。  今日が退院日だというが、こんな状態の俺が退院できる訳がない。  もっときちんと調べてくれ。適切な治療をしてくれ。  そんなことばかりを考えていると、ふいに、仕切りで遮られている隣のスペースの声が耳に入った。  お隣さんも今日が退院の日か。重篤患者のいる部屋だと聞いていたけれど、その人が治ったのかな。あるいは俺のように、ベッドの都合でこの部屋に入ることになった軽症の患者さんか?  何にしろ、きちんと退院できるなんて羨ましいことだ。  隣のやりとりが途絶える。お隣さんはこれで完全に退院だ。
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