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店内には、珈琲の香りがどぎついほど漂う。口内に苦味を感じる程、蒸せ返る香気は如何にもチェーン店といった装いだった。
カウンター手前には、幾人かの列が出来ており、テーブル席は満杯。
「コーヒーを一杯」
すらっとしたシルエットスーツの男性が、ホットコーヒーのラージサイズを注文する。
「540円です」男は一万円で支払う。
「はい、お返しは……」と元気に接客する女性店員を遮り、紳士が世間話をするように親しげに話す。
「お釣りの分、後のお客さんのコーヒー代を払ってあげて欲しい。余った分は……そうだな店内に設置されていた義援金箱に入れたらいいだろう」
紳士の発言の後に、2.3の押し問答があったが、店員に納得してもらい、紳士は帰っていった。
理由については語らなかった。ただ、一言。
「こういう日があっていいじゃないか。たまにはいいんだよ、たまにはね」
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