2013年1月19日 スターバックス 仙台市駅前センター店

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35杯目 今日は1人でコーヒーを買って大人になる。 おかしいくらい並んでいる行列の中、小さな少年はじっと順番を待つ。 小学3年生の秋葉勇人にとって、1人で苦いコーヒーを買う行為は大人への立派な通過儀礼だった。 勇人の家は、仙台市内で有数の資産家である。激務の父とは半年程顔を合わせた記憶がない。 半年前に父と約束した。 「俺がスターバックスのホットコーヒー飲んだら、1日仕事休んで」 勇人の父は笑顔で了承する。勇人のコーヒー嫌いを父は知っていた。 お父さんとキャッチボールして、楽天のナイターを見に行くんだ。 勇人はインスタントで何度も何度も練習し、苦難と努力の結果砂糖なしのミルクコーヒーを飲むまでに成長する。 そして、本日母の許可が下りようやくスターバックスにやってくる。 勇人には、30分弱の待ち時間なんてあっという間で、いつの間にか勇人はカウンターに到着していた。 さっき、コーヒーを頼んだからお金を出さないと、と勇人は財布から硬貨を取り出そうとする。 しかし店員がニコニコしながら言った。 「お客様、もう料金は頂いております」 「えっ、どうして?」 「前のお客様があなたのコーヒー代を支払いましたから」 「えっ?」 「はい。コーヒーをどうぞ」 勇人は考えた。 大人なら、この時どうするんだろう。 そのまま、もらって帰っちゃう。 でも、僕の後ろで待ってる人がいる。 待ってる大変さを、僕は知ってるんだ。 大人なら……パパやママならどうするか。 「お姉さん、僕、後の人のコーヒー代を払うよ」 僕の後ろで、ちょっと驚いていた大人の人。 ふん、僕ももう大人なんだからな、気遣いだって出来るんだ。 コーヒーを持ち帰る勇人の顔は、晴れやかだった。
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