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珍しいなと、最初は思った。
禁煙の叫ばれるこの御時世、店のドアに
『喫煙席有ります』や、
『喫煙室有ります』は見掛けても、
『全席喫煙。嫌煙、禁煙者お断り』と堂々と謳われる喫茶店は初めて見た。
丁度ニコチンが切れ掛けて苛つき初めていたので、これ幸いとドアを潜る。
チリン、とカウ・ベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
カウンターの内側から、マスターと一目で判る細身の男が穏やかに声を掛けて来る。
声は渋く、そして彼自身も煙草を嗜むか、少し掠れた響きを含んでいた。
COPD、の文字が脳内を廻る。
慢性閉塞性肺疾患。別名煙草病。その名前の通り喫煙者には多いし、その周りで副流煙を吸う事になる人にも多いと聞く。
だが、そんな事は気にしない。むしろ好きな物で命を落とせたら本望じゃないかと。
運送業者に勤める同僚は喫煙を嫌い、トラック内では吸えない。煙草を吸う為だけに何処かないかとうろついていた俺には有難い場所だった。
難点を言うなら裏路地に在って、ちょっと見付け難い点か。
短く、素っ気なく返す。
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