a lingering scent of

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真っ白な灰皿に捨てられた灰色になった煙草。 引き剥がされた身体はもう宮瀬にくっ付くことなく定位置であろうソファーの背に腰を掛け直す。 今日はもう日曜日。 「早いですね一日が」 「そうだな」 次会えるのは、余程の事が無い限り5日後。 その間宮瀬がどこに居て、何をしてるかは分からない。 最低限の連絡は本当に質素なもので、全ての発信は向こうから。 「少し、寂しいですね」 久々に素直になって柄にもない声を出すと、宮瀬にもたれかかった。 それを嫌な顔せずに受け止めた宮瀬は、私の肩をしっかり抑えながらも前屈みでテーブルの箱を手に取る。 そしてその箱から取り出されたものに赤く火が点った。 私の言葉に何も答えない代わりに、深く吸い込まれ吐かれた煙がゆらゆら目の前を揺蕩って消えていった。 「やっぱ、この匂いが一番好きです」 「煙草の匂いが?」 「いえ、煙草と透さんの匂いが混ざったのが・・です」 そこまで言い終えると、照れたのか宮瀬はまた煙草を咥えた。 そしてまた視界が白く曇る様に目の前を揺らす。 「凜、やっぱり今日は」 「いけませんよ。着替え持ってきてないですから今日は」 「はぁ、本当に早い一日だな」 陽が沈んで月が登ったら、私は家に帰らなければならない。 それを阻止するかのように宮瀬はたどたどしく口を開く。 だが、その言葉に返す答えは宮瀬が望んでるものではなかっただろう。 今日を惜しむのにはまだ早い時間帯に次を考えて寂しくなるのは私だけではない。 「また、来週末に会えますよ」 「来週末か・・」 「不満そうですね」 「当たり前だろう、出来る事なら今日は帰したくない」 消えた火は既に捨てられた灰と一緒になり、宮瀬の手は自由になる。 その手で触れる私の頬からはほんのり煙草の匂いが香り、そしてその口からもまた同じ匂いのする味が口移された。 「続きはまた来週ですね」 その言葉で締めくくった行動は静かに息を吐いて終わりを迎える。 口に残った苦味は暫く消えることはない。 そして、私は触れたこの手から伝わる温かさと 鼻から抜ける様な苦い香りを身に纏って、今日を言う日を終えるのだろう。 消えない残り香を忘れないように、座り直す素振りでもう少しだけ宮瀬に近づいた。   - fin -
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