a lingering scent of

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揺れた紫煙が、目の前を少しだけ曇らせた。 軽く息を吸うと慣れた匂いに溜息が出る。 短くなる煙草を確認して、その灰を灰皿に落とすともう一回口に運ばれたそれは灰皿の底に擦り付ける様に火が消された。 「結構吸うんですね」 「ん?あぁ、減った方だがな」 宮瀬の部屋にあるソファーの上で、もう3本目のそれを見て不意な質問を投げた。 ケースにも入れられていない煙草が机の上に放置され、すぐ横にはライターも置かれている。 宮瀬の家に来るようになって、出会った頃よりも見る頻度が多くなった煙草を吸う仕草。 煙草を嫌う人の前で吸うのは本意ではないと言った宮瀬は、同じく喫煙者である私の前では遠慮なしに吸って見せた。 「あまり吸い過ぎるのは体に悪いですからね」 「じゃあ、吸いたくなったらキスしてくれる?」 「今、それ絶対言うと思いました」 日曜日の昼下がり、38階にある部屋からは電線の見えない外の景色が大きく広がっている。 煙草を止めろとは言わず、曖昧に宮瀬を諭すと思っていた答えがそっと返ってくる。 どこかで見たことあるようなセリフに思わず笑いがこみ上げた。 「でも、そうすると仕事中とか意味ないじゃないですか」 「仕事中は別でも、休日に本数が減る事に意味があるだろ」 「てゆうか、透さんそれを理由にキスしたいだけなんじゃ・・」 「さあ?どうだろうな」 どこから見渡してもその約束には利害関係は無いが、ただただ一方的に宮瀬が得をする内容になってることに不満を漏らす。 はっきり口で否定しなかったその事実が、自分が想定している予測の確証になった。 「魂胆がバレバレですよ」 「理由を付けなきゃキス出来ない状況が問題だと思うが」 「別に理由なんていらないでしょう?」 今度はちゃんと笑って見せた私の顔をその大きな手が包み込む様に触れる。 そしてあぁ、キスされると思ったその時には宮瀬の顔はすれすれまで近づいて来ていた。 「凜・・ほら、この手」 まだ慣れないキスの感覚にぎゅっと目を瞑り時の流れを待つ。 もう触れるだろうと思った時に感じるであろう感覚は唇からは伝わってこなかった。
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