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「どうした?」
頭から降る言葉は優しい割にどこか驚いていて。
顔を埋めたまま動かない私の背をそっと撫でる。
先ほどのキスで少し息が上がっている私を宥めるかのようにさすられる背中。
大きく息を吐いて整った呼吸を連れ、宮瀬を見上げた。
「やっぱり、減煙は無しにしましょ?」
「突然どうしたんだ」
「透さんのこの匂いが好きだから・・」
「匂い?」
部屋着も、スーツも私服も、どれにも宮瀬の匂いを感じる。
そこまで強くないフレグランスと煙草の匂いが混じった独特の匂い。
掻き消えきれてない煙草の匂いにどこかホッとしてる自分が居た。
「煙草の匂いを嗅げば、透さんを思い出せそうな気がして」
「落ち着く?」
「はい、とても」
「そっか」
宮瀬に抱かれる度にその香りで一杯になる自分の身体。
その腕に収まってしまう大きさの私はダイレクトにその香りを感じられた。
そしてその香りは宮瀬と離れた後にも染みつくように髪や服に痕跡を残す。
「でも、キスは適度にならいいですよ」
減煙を理由に提案されたキスを今度はこちらから提案し直すと宮瀬は驚いた顔をして一度天井を仰いだ。
下から見上げるその顔は表情は見えなくとも困惑している様子で、それにさえも笑みがこぼれる。
「それは嬉しい誤算だな」
「誤算なんですか・・」
「無意識に俺の身体を押すのは恥ずかしいからだろ?」
「分からないって言った筈です」
触れることに臆病で、甘えたと思えば爪を立てる猫の様だと。
そうやって揶揄してても、立てた爪痕さえも宮瀬は嬉しそうに舐めとるだろう。
嘘でもそうだと言わなかったのは、言ったら最後それさえも楽しもうとすると危惧したからだった。
「まぁ、お許しが出たんだ。遠慮はしない」
「ちょ・・っ、限度ってものが・・んっぅ!」
意味深く笑った宮瀬にサーっと血の気が引いたのを確認すると、容赦ない攻撃がまた始まった。
片方の手で頭を抑え込まれれば、逃げる術はもうない。
呼吸困難にならないように、時折離れるその間から酸素を取り込むことに必死になった。
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