a lingering scent of

5/6
309人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
離れてはくっ付きを繰り返して、悩ましい音が響き渡る。 自分の吐息さえも宮瀬を煽り、そして自分自身さえも奮い立てた。 力なく抱き着いた腕が震えと共にずり落ちてしまいそうになるのを隠すように宮瀬の服を握りしめた。 「息の仕方位覚えろよ」 「長すぎなんですよ・・っ」 「俺は、ずっとこうしてたいがな」 「心臓壊れます」 最後に上唇を名残惜しそうに舐め、離れた唇からは色んな言葉が出てくる。 苦味より甘さしか感じなくなった舌先はすでに麻痺してしまっているのだろうか。 口の中いっぱいに広がった宮瀬の煙草独特な味はもう慣れと共に消えていた。 「でも、本当に禁煙できそうな気がしてきた」 「え?」 「キスの話」 「嫌ですよこれで禁煙だなんて」 その言葉と同時にしがみ付いた宮瀬の身体に回していた腕に力を入れ直す。 今一度、顔を埋めた私が小さく呟いたのは少し不貞腐れた様な言葉。 いきなり体重のかかった私の身体をソファーから落とさないようにと宮瀬も慌てる様に支えたが、聞こえた羅列に違和感を感じたのかすぐに力を込め私を引き剥がした。 「キスにも煙草の匂いを求めるの?」 「違います」 「じゃあ、なんで?」 キスで禁煙だなんて出来るはずがないと思ってはいたが、仕事中を除けばこの男はきっとやってのける。 それが意味するのは自分への代償の重さ。 数回しか見てない宮瀬の煙草を吸う仕草、それでも分かるたった一つの事実。 「透さん・・チェーンスモーカーじゃないですか・・」 灰皿には三本の吸い殻。 その三本はほんの数分の間に灰にされた物だった。 ヘビーではないのは分かっていたが、宮瀬は間違えなくチェーンスモーカー。 続けざまに吸い続ける事が習慣になっているようだ。 そんな宮瀬がキスで禁煙だなんて考えただけでも想像がつく。 「自覚は無いが、そう見えたのか」 「そんな透さんがキスで禁煙だなんてしたら、私の身が持ちません」 「思春期でもあるまいし手加減はするさ」 禁煙を理由にしなくたって宮瀬のキスは長く深い。 離れようとしてもすぐ追いついてくる次に息をするだけで精一杯の私。 求められている感覚は嫌でも伝わってくる。 「それでも、ダメです」 だからこそ、震えて応えるしかない私はその感覚が怖いと思うほど依存しそうになった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!