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背中に、ごつごつとした感触。聞こえてくるのは川の音。そして、俺をのぞきこんでいる、腰蓑だけを身につけた男。たれ目で優しげな顔立ちのイケメンだ。腹筋も割れてていい体をしている。だけど、何故に腰蓑?
「ああ、気づいたかい? 死んでるのかと思ったよ」
イケメンの口から少しかすれた声が落ちてくる。
俺はゆっくりと体を起こした。頭がズキリと痛む。
「えーっと……お前、だれだ?」
後頭部の痛みに顔をしかめながらそう尋ねると、彼は訝しげに首を傾げた。
「うん? 僕は祐太郎さ。さて、と。もう行くかな。だけど本当はこんな姿を見られたくなかったなあ」
ぼやきながら祐太郎は立ち上がる。まあ、たしかにほぼ全裸だもんな。しかも腰蓑。それにしても、祐太郎……か。どこかで聞いたことがあるような。
あ、そうだ。人に名前を聞くなら自分も名乗るべきか。あれ?
「なあ、俺って……誰だっけ?」
どうしても思い出せない。自分の名前も家も、なんで、ここにいるのかも。呆然としている俺を見かねたのか、祐太郎が隣に腰を下ろした。あたたかな風が二人の間を吹きぬけていく。
「あちゃあ。こりゃ打ち所が悪かったかねぇ。道理で僕を見ても驚かなかったはずだよ。お前さん、落ちてる空き缶に足をとられて転んで、そこの岩に頭ぶつけたの、覚えてないかい? ……ま、これでも飲んどけ」
と、祐太郎は腰にぶら下げていた瓢箪を差しだしてきた。何故に瓢箪?
「ささ、ぐいっとな」
促されるまま、ぐいっといって……、
「ぶっ……げほっごふっ……」
むせた。なんだ、これ!? 喉が焼ける、熱い、痛い。咳き込む俺の隣で祐太郎がケラケラと笑う。
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