桜色の宵

1/18
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

桜色の宵

「一度でいいから。 ……なんて、酷い言い草だったよな。」 彼はそう言いながら煙草に火をつけた。 『《食事》の後には煙草』 なんだそうだ。 そんな台詞、とっくに受け入れているから一緒に居たのに。 小さな罪悪感が どうやら彼にはあるらしい。 「時間は……平気?」 「……ん、大丈夫。でも、そろそろ行くか。」 煙草を揉み消すと、彼は私を掻き抱いた。 「そんな顔するなよ。いくらお前相手でも 4回戦目はさすがにキツイよ、桜。」 「ばか……」 私はそっと彼の胸を押し戻し 散らばった衣類を集めながら身に付けていく 気を付けていることは…… 自分に香りを付けないこと 痕を残さないこと そして、深追いしないこと これは秘密の関係だから それなのに 「一度で……なんて、俺が耐えられない。 毎日でも抱きたいのに」 甘い声を掛ける男。 知らず知らず、 私は深みに嵌まっていたのかもしれない いいえ はじめから分かっていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!