桜色の宵

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営業部の私より三期上の敏腕営業マン。 スラリとした、と言うよりは程よく筋肉質で 背の高い彼は 大きな目が輝く、彫りの深い顔の濃い所謂イケメン。 大きな口でよく笑う。 おまけに話しやすい気さくさや仕事が出来ることが相俟って 営業部はもとより、社内でも人気が高い。 それが彼。 営業部の経理を担当する5年目の事務員。 化粧もあまりせず、目立たず地味で ひっそりと生きている。それが私。 彼の左手の薬指には 私が入社して2年目の頃に銀色の環が光り始めた。 相手は取引先の美人受付嬢らしい。 社内に噂が回っていた。 私は派手で目立つ人は苦手だから 彼をどちらかと言えば避けていた。 なのに…… 「樫井さんお疲れ様。遅くなってごめん。 これ、よろしく。 ねぇ。…樫井さんって、化粧しないの?」 「?」 残業中に領収書を持ってきた彼が私の顔を覗きこむ。 経理の担当だから仕事の話は仕方ないが、 最近違う。 なぜか、彼はよく私に話しかける気がする。 私が嫌そうに顔をしかめると 彼はばつが悪そうに呟く。 「いや、あー、美人なのに勿体ないなと。」 (ほっておいて欲しい。)
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