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私は弾む気分で
音浜高校の
正門をくぐった。
数年前、初めて校内に
足を踏み入れたあの日と
同じ、軽やかな
気持ちでだ。
時刻は朝の七時三十分。
正門から続く並木道には
まだ誰もいない。
そして、この時期であればまだ咲いているはずの
桜の花も、今年は見事なまでになかった。
その理由は、列島を横断していった春の嵐により、一晩にしてその殆どが散りきってしまったからだ。
始業式のこの日にひらひらと舞う薄ピンクの花びらを見られないのは、やっぱり寂しいものがある。
けれど、嵐の後の空はどこか清々としており、空気はいつもより澄んでいるように感じられた。
これはこれで始まりの朝にはぴったりかもしれない。そう思うとまた心が弾んだ。
私は逸る気持ちをおさえ、職員室が入っている新校舎へと向かう。その時ふと、正面のガラス戸に映る自分の姿に目がいった。
そこにいた私は音浜高校の制服ではなく、上下のスーツを着ていた。髪は学生時代と二つ結びではあるけど、当時よりやや下の位置にまとめてある。
そんな自分の姿に、私は改めて今日の日を実感した。
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