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「アレ……なんなの?」
ティーチは無言のまま小さく溜息を溢した。
ティーチが町に着くとすぐに町民が彼らを囲んだ。それぞれが感謝の言葉を口にする中
「パウロ!あんたその無鉄砲な性格どうにかならないの!?」
一人の少女がパウロの耳をひっつかみながら容赦のない小言を放っている。彼女の名前はクー。12歳という若さだが、そのしっかり者と評判な性格故に年上のパウロよりも随分と大人びた印象をうける。青いドレス風の洋服と快活な性格が不釣り合いなせいか、妙に印象的な少女だ。
(なぁ、ティーチ……女は二人でも、こういう時は姦しいっていうのか?)
「!」
パウロは心の中でティーチに向けて問いかける。ティーチは一瞬驚き、それからクスリと笑った。
「意味としては……な」
二人はニヤリと笑みを見合す。クーにはそれが何か分かるはずもないが、疎外感に腹を立てたクーの小言の対象はパウロに二人分、追加されたのは言うまでもないだろう。
「さぁ、今日はこの村に来てくれたティーチ君、それにグリーンさんの歓迎を兼ねて祭りの準備をしてきた」
「したのは俺達だろー」
「ガハハハッ」
シルヴァのあいさつに口を挟む町の人々とそのやり取りに景気よく笑う酒場の店主。それを咳払い一つで制すとシルヴァは続ける。
「んん!!とにかく……です。彼は皆知ってのとおりかつて忌み嫌われた教育者の末裔らしい……」
「それがどーしたぁ」
すでに酒気の入っている若い世代は馬鹿笑いで相槌をいれている。
「こらこら!あまり私の見せ場を取らないでください!!」
怒ったところでそれも聞こえてはいないだろう。頭を抱えるシルヴァはもはやパウロ以外誰も聞いていない挨拶を元気なく続けた。
「……とにかく、この町ではそんな事は関係ない。むしろ彼はあの山賊どもを追い払ってくれた英雄だ。今日の歓迎祭をもって十二分、親睦を深めていただきたい」
どうやら、風評を気にしない風土はパウロや町長だけでなく、この町全般に言える雰囲気だった様で、それはティーチにとってこの上なく有難いものだった。祭りはそのままグダグダと始まり、豪華とはいえないまでも大量の食事が目の前に立ち並んだ。大喜びのパウロは恐らくメインディッシュであろう大きな鳥料理にかぶりついた。対してクーはものほしそうな顔でテーブルのグラスを眺めている。
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