第1章出会い

2/3
前へ
/46ページ
次へ
1章・出会い  被災より百と数十年、春を迎えた今もまた、一切の変化を起さない荒野。その中心にある田舎町の暮らしは決して楽なものではなかった。作物は僅かしかとれず、通貨は失われた共生の世界がそこにはあった。今日、この町に密かに運びこまれた男性がいた。スラリとした長身を黒衣に包み、身の丈程の大鎌を背負ったこの男こそ教育者の家系の生存者ティーチである。  次に彼が目覚めた時、彼のいた場所は仄暗く窓一つ無い建物の中だった。微かに香るワインの香りからして恐らく酒場の地下といった所だろう。そこまでの考察をすると同時に立てかけてある自分の鎌に手を伸ばした。その時― 「そんな物騒なもんで何をする気だい?」 方言なのか滑舌なのかやや風変わりなイントネーションの声へと振り向くとそこには15、16歳だろう幼さを残した顔立ちの男子が大ダルに腰を掛けていた。少年は活発な印象を与える逆立った髪と、その風貌からは不釣合いな大人びた青い宝石の入ったピアスを右耳につけられていた。少年は言葉を続けた。 「オイラの名前はパウロ。慌てなくてもアンタの事を知っているのはこの町じゃああんたを運んだ酒場の主人と町長だけだ。それより、アンタ、その右腕の紋って教印か?」 パウロの声はどこか喧嘩腰で言葉一つとっても尋常でない警戒心が伝わってくる。しかし、不思議と敵意は感じない。 「……そうだ。この紋は教育者狩りから逃れる為に代々受け継がれてきた紋。忌み嫌われる家系の証明だ」 少し考えてからティーチは正直に答えた。この教印こそ非難をうけた教育者達の生存を賭けた切り札であった。 「じゃ……じゃあアンタが【十字架の死神】なのか?」
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加