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時計の針が十一時をまわった頃、話し疲れたパウロは樽を背もたれにした姿勢のまま寝いってしまった。そんなパウロにティーチは恐らく自分の為に用意されたのであろう一枚の毛布をかけてやった。丁度その時、地下の入り口から年老いた男と丸太の様に太い腕をした大柄な男が入ってきた。
「お初にお目にかかります。私はこの町をまとめているシルヴァと申します。こちらは酒場の主人をしている……」
「……ゴンスだ」
小太りな男に急かされる様にして大柄な男が答える。
「おや?パウロは眠ってしまいましたか・・・・・・どうやらあなたの事を信用しきっている様ですな」
シルヴァは礼儀正しく頭を下げた後、この顔を見ればあなたの事も信頼できるように思えるとパウロの寝顔を見ながら微笑んだ。
「・・・・・・ティーチだ。倒れているところを助けて頂いた事には感謝している。だが、これ以上俺がここに残れば貴方がたの立場も危なくなる。早朝には町を抜けさせていただく」
ティーチは教育者であり、迫害対象である自分を匿う危険を嫌と言う程知っていただから、それだけを告げると荷造りを始めた。しかし、その手を町長が止める。
「貴方はこれからも旅を続けるつもりですか?パウロの事もありますし、私は貴方を町のみんなに紹介したいと思っているのです。一つ、私の案に乗ってはいただけませんか?」
ティーチは暫くの沈黙の後、パウロの顔を見て暫く考えるとシルヴァに言った。
「話しを聞こう」
翌朝、シルヴァの案を受け入れたティーチは町の北にある廃村を目指していた。彼の話しはこうだった。今尚、差別として教育者への不信の目はあるが、この様な小さな町ならば町長の力添えと何らかの実績があれば町民に受け入れられる事は十分に可能だというのだ。
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