深夜喫茶「二杯の珈琲」

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背中に僅かな寒気が走った。 そして、そこまで考え、俺はようやく理解した。 メロンちゃんはこの事を俺に伝えたかったのか。 そこに居るはずのないお婆さんの姿を、メロンちゃんも見てしまったから。 「さてと、」 老人はそう言って、どことなく寂しそうな顔でレジに向った。 そんな老人の顔を見て俺は、 「あの……!」 と、何だかいてもたってもいられず、気がつくと無意識に老人を呼び止めていた。 「はい?」 老人が短く返事を返す。 「また……来て下さい。コーヒーならたくさんありますから、お代わり用意して、お待ちしています」 自分でもなぜこんな事を言ったのかは分からない。けれど、なぜかそれ以外の言葉が、その時の俺には見つけられなかった。 「ふふ、ありがとう。本当にありがとう」 そう言って老人は深々と頭を下げた。釣られて俺も深く頭を下げ返す。 顔を上げると、そこにはもう老人の姿はなかった。 「えっ?あれ……」 間の抜けた声が店内に響く。 「な、何で、今の目の前にいた……えっ?ええっ?」 辺りを急いで見渡す。いない。さっきの老人が、まるで煙のように掻き消えた。 「すみません、言葉が足りて無かったです。付け加えるべきでしたね」 メロンちゃんが急に口を開いた。 「誰と……何を、話してたんですか……」 メロンちゃんの冷たく、抑揚の無い声が、俺の頭の中で残響となって響いていく。 「あそこに人なんて、初めからいませんでしたよ」 そう言うと、メロンちゃんは再びノートPCの画面に視線を落とした。 その後の事はよく覚えていない。酷く混乱していたのは確かだ。 あの後はろくに客もこなかった為、俺は嫌がる相方を表に立たせ、厨房で一人ふさぎ込んだまま、朝を向えた。 あの老夫婦の事はその日の朝、店長からの電話で、ようやく理解する事ができた。 店長曰く、昔よく店に来てくれていた常連客がいたらしいのだが、 昨夜、昏睡状態のまま、亡くなったらしい。 奥さんを癌で亡くしたばかりで、かなり塞ぎこんでいたらしく、ここ最近心配していた矢先の事だったとか。 店長は通夜に行く準備をする為、今日は少し出勤が遅れるとの事だった。
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