深夜喫茶「レッドパージ・赤の亡霊」

3/13
前へ
/35ページ
次へ
俺は厨房に居る相方に事情を説明し、二人の男を事務室へと案内した。 すると二人の男はさも当たり前のように俺の脇をすり抜け、半ば強引に事務室へと入っていった。 唖然とする俺。 どうしたもんかと考えても仕方がない。しょうがなしと、俺は店内に戻った。 ふと店内に目をやる。カウンターのすぐ前のテーブル席に、見知らぬ男性が座っていた。 どうやら俺が警察官を事務室に案内している間に来た客のようだ。 やばいやばい、トレーを手に取り、急ぎ足でテーブに向かう。 「た、大変お待たせしました。ご注文は?」 が、 「……」 男性は何も答えない。それどころか無反応と言ってもいい。 やばい、怒らせたか? 俺は男性の脇に立つと、たいして嬉しくもないであろう、ぎこちない笑顔を向けた。 無視だ。まあ当たり前か。 「えと、お客様……?」 再度声を掛けた、その時だった。 「ごめん、親父。本当に……ごめん。黒くなっちまった、何もかも、本当にごめん」 一瞬ぞっとするような、低い押しこもったような声だった。 表情は変えず、目線は前を注視したまま、何よりもこの男、 さっきから瞬き一つしていない。 やばいなこれは…… この店には超がつく怪しい客がよく来店する。 なぜかは分からない。 ここは留まり易いだとか、霊道かもだとか、そんな事を前に言われた事もある。 「ご、ご注文がお決まりになりましたら、ま、またお呼び下さい」 俺はそう言い残し、すばやくその場を離れる。 「はぁっ、はぁっ……」 俺はカウンターに戻ると、荒くなった息を整えた。 「何か、あったんですか……?」 斜め向かい側、店内の一番隅にあるテーブルから、聞きなれた女の子の声が聞こえた。 出たな超がつく怪しい客。 俺は頭の中で悪態つきながら、声の方に振り返った。 ゆるふわな髪に、首に下げたヘッドフォン、大きな眼鏡の中からは、これまた大きな瞳が俺をジッと見ている。 一見幼い顔立ちをしているが、よく見ると美人だ。愛想は皆無だが。 そんな彼女は、この店の深夜帯の常連客、通称メロンちゃんだ。 メロンソーダばかり頼むため、バイト仲間の間ではそう呼ばれている。 が、俺にとっては鬼門中の鬼門。 過去、この子に関わって、俺はこの店でいろんな体験をした。 主に説明の付かないような事ばかり。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加