深夜喫茶・第一話「見えない交渉」

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メロンちゃんにすがりつくようにして泣きつく女性。そんな女性の頭を、メロンちゃんは優しく撫でている。 そして俺の方に向き直ると。 「タクシーを呼んであげて下さい。この子はもう、大丈夫ですから」 「は、はい」 俺は返事を返すと、急いでタクシー会社に電話した。 程なくして一台のタクシーがやってきて、俺は車の中まであの女性を運んでやった。 「酔っ払いですか……?」 と、迷惑そうな顔で運転手に言われたが、 「失恋したみたいなんでそっとしといてやって」 と言っておいた。 店内に戻ると、メロンちゃんが帰宅の準備をしていた。 「あの、もう帰るんですか?まだお礼もできていないのに」 そう言うとメロンちゃんは、 「店員さん、帰りは歩きですか?」 と聞いてきた。またもや意味不明な質問。が、一応助けてもらったのだから、ぞんざいな受け答えはできない。 「いえ、バイクですけど……」 「そう、電車じゃないんだ」 ポツリと言うと。メロンちゃんは代金をカウンターに置いて、頭をペコリと下げてから、店を出て行った。 代金に目をやる、ぴったしだった。 翌朝、俺は昼勤の奴らに引継ぎをし、店を後にした。 店長に嫌味の一つでも言ってやろうかと思ったが、やめた。疲れた。とにかく疲れた。 バイクに乗り、アパートに帰宅した後に、ベッドに沈むようにして爆睡した。 何時間立っただろうか。 ピーピピピ!ピーピピピ! スマホの着信音に、俺は目を擦りながら起きた。 「はい……」 寝ぼけた声で返事を返す。 「良かった、無事だったんだね」 店長だ。それにしても何だ?無事って? 「あの、何ですか無事って?」 「あれ知らないのかい?まあ寝てたんならしかたないけど、駅の方で通り魔事件があったんだよ。丁度君の帰宅時間と被ってたから気になってね」 「通り魔事件?」 俺は聞き返すようにいうと、急いでテレビをつけた。 何度かチャンネルをかえると、やがて、緊急生放送、と書かれたテロップ画面を見つけた。 喫茶店から近い見慣れた○手駅をバックに、一人の報道記者らしき男が、青ざめた顔で必死にリポートしていた。 「この事件により、計13名が重軽傷を負いました。被害者の方の安否が気遣われます。以上現場からの……」 現場から場面がかわり、大勢の警察官が一人の男を連行していく場面に切り替わった。 「ただいま容疑者が連行されて、」
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