深夜喫茶・第一話「見えない交渉」

6/7
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
新たなリポーターが実況を始めた。が、俺はそこで愕然としてしまった。 テレビ画面の中、連行されて行く男の顔に見覚えがあったからだ。 忘れもしない。深夜、あの女性を説得していたメロンちゃんが、窓の外を指差していた時、通りかかった通行人の男性……間違いない、あの男だ。俺が頭を下げたあの男、 何で…… こんな偶然があるのかと、自問自答しそうになった時、俺はふと、あの言葉を思い出した。 確かメロンちゃんは俺にこう言った。 「帰りは歩きですか?」、「電車じゃないんだ」と、 俺は怖くなりいてもたってもいられなくなった。 何なんだ。一体何が起こった?あの夜何があったんだ!? 必死に考えたがうまく頭が回らない。 会うしかない、メロンちゃんに。もう一度あって本人に確かめるしかない。 俺はそう思い。夜を待った。 いつもと同じように出勤し、メロンちゃんが入店する時間まで待った。 やがて、時計の針が二本とも真上を指したとき、店のドアベルが鳴った。 腰まであるゆるふわな髪の毛をかき上げながら、メロンちゃんが入店してきた。 ヘッドフォンを耳から外し、いつもの場所、いつもの席に着く。 「いらっしゃいませ……」 と、俺は言ってから、オーダー機は持って行かず、あらかじめ用意したメロンソーダを持って、メロンちゃんの席に向った。 「メロンソー、」 メロンちゃんが俺に注文するが、俺は彼女が言い終わる前に、メロンソーダをテーブルに置いた。 「昨日のお礼だ。で、あんたに聞きたい事がある」 ぶっきらぼうな物言いは百も承知だ。だが、何となくだが、俺はメロンちゃんにどこか恐怖を感じていた。 それが分かるまでは警戒を解くわけにはいかない。 「聞きたい事……ああ、ニュース、見たんですね」 無表情のままメロンちゃんがボソリと答える。 何でこの子はいつもこうダウナーなんだ。 「ニュース?じゃあアンタやっぱり何か知ってるんだな?」 俺は苛々しながらもメロンちゃんに聞いた。 「ええ、まあ」 「あんた昨日言ったよな?帰りは歩きか?って、俺がバイクだって答えたら、電車じゃないんだって、そしたらどうだ、俺の丁度帰宅時間に、○手駅で通り魔事件が起こった。しかも事件を起こしたのは、あんたが昨日の深夜、指をさした、窓の外にいた男だ!」 「あれは、あなたがそうしろって言ったから……」 「俺が?一体何言ってるんだ?」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!