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「ふふふ…屋根裏の穴も塞いだ。玄関の鍵は閉めた。台所と仕事場の鍵も修理したぞ。これで万全だ!」
そんな男の自己満足は一分も続かなかった。
「へぁっ!?何故!」
「師匠は詰めが甘いよ。換気扇の下の窓をごらん」
優雅に台所の椅子に座って湯呑みを傾けるおさなづま。
タイガーと呼ばれているが、本名は誰も知らない。
窓は、窓枠ごと外れていた。
「師匠いうな。いや、そんなことじゃない。タイガーさん、何で人んちで晩酌してる」
「酒もおつまみもちゃんと持ち込みだから心配しないで。あ、湯呑みは借りたけどね。ほら、黒霧島1.8Lパック。師匠にもわけてあげるから」
紙パックは男の趣味ではないが、なみなみと注がれた焼酎を断る気は全くない。
言いたいことは沢山あるが、何から言うべきか。
「だいたい、1.8Lパックをチョイスする辺りが立派な酒呑みだ」
「ちょっと触っただけで、パッケージに指が刺さっちゃってさ。最近の包装はデリケートでいけないよ」
そんなはずはと言いかけて、男は窓枠を見た。
「じゃああれも」
「開けようとしたら外れちゃってさ。最近の窓枠もヤワにできてるね」
男は遠くを見た。
家の補修には意味がないことを悟った。
【完】
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