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もう何年になるだろうか。
あれはこの地に降り立って間もない頃。
北京ダックなどと人名とは程遠い名乗りをしているからには、近所付き合いする気などさらさらなかったのだろう。
しかし気がつくとそこにいた。
そう、こうやって……。
どうでも良い走馬灯シーンから入ってしまうのは逃避したいからに違いない。
ちゃぶ台にしっかりとはりついている枯れ草色の上着を着たおさなづま。
スパゲティなど食べながら一心に何かを切り刻んでいる。
そばに置いてあるのはようちゅう観察セットだろうか。
できれば持ち込んで欲しくはない。
「ダック、寛ぎのところ申し訳ないが、何をしてる」
「切り絵」
「それはわかる。できるなら自分ちでやらないか」
「ここも自分ちみたいなものだし。侵入経路は聞かないの?」
「何だかそんな問題じゃなくなった気がするからな」
「良い心がけだ。野宿しているとでも思って諦めると良いよ」
楽しい我が家
ああ、愛しい我が家。
男はそう思っていたのに野晒しだったのだ。
春なのに、まだ風は冷たい。
【完】
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