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もう何があっても驚かないと心に決めた男は、次の瞬間驚いた。
「まてまてまて。最近やけに高菜の油炒めの減りが早いと思ってたんだ」
「そう、これがあったらご飯三杯はいけるよ」
マイ茶碗にマイ箸を握り締めたやんすが、勝手にご飯をよそっていた。
ついにここまできたかと男は思う。
「この間、確かに作ったはずのちゃんぽんが消えたのは……」
「あれね。師匠、悪くはないけどちゃんと鶏ガラからスープをとるといいよ」
「楽しみにとってあったひよこ饅頭が無惨に皮だけひっぺがされてすっぽんぽんで並んでたのは……」
「皮から食べるのが好きなんだ、後であんこ食べようと思ってたのに急用ができちゃって」
やんすは何かに気づいたようににんまりした。
「師匠、師匠いうなっていわなくていいの?」
「アッ!」
やんすは、男が狼狽えた一瞬の間に煙のように消えていた。
途方もなくペースを乱された男は、ただ茫然と立ち尽くした。
【完】
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