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しくしくしく。
真っ暗な中、泣き声が聞こえる。
お化けの類は気にならない男だが、ここ最近起こることは心臓に悪い。
そっと屋根裏部屋を伺うと、書物を傍らに置いた河内はろんがしきりに目元をこすっている。
「どどどどうした河内さん」
泣かした覚えは……。
「しくしくしく。いちま~い、にま~い、足りない……頁が足りない……」
「皿屋敷じゃないんだから……あ、それは……」
男が無計画に書き始めたせいで、すっかり滞っている書物だった。
「いつか……いつかはと思ってるんだけどねぇ。遅筆なのにどうしても他のことに手を出しちゃって」
河内はろんが男の言葉に納得している様子はないが、さっと表情が明るくなった。
「あ、あっちにもそっちにもありますね!」
(うわあああ、それもこれも未完だあっ)
危険な書物を隠しておける場所が、何故かすっかりなくなってしまった屋根裏部屋には別の危険が潜んでいる。
ごめんなさい、ごめんなさいと男は四方八方に謝った。
【無理やり完】
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