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スパァーン。
実に潔い音を立てて襖が開いた。
「御師様。依頼が入りました」
「御師様いうな。何とか断れないかな。俺忙しい」
「抜きますか?それともとっとと仕事終わらせますか?」
「何でそのニ択!?毛抜きなんてどこから持ち出したんだ」
「斧とつるはしもありますが」
「どこを開拓するつもりだ」
「御師様の頭皮という荒野を」
青地に胡蝶と桜の柄がある振袖。
日常からかけ離れた装いだが、これが彼女の普段着なのだから仕方がない。
「依代、君が有能なのは良く知ってるけど、ホント俺寝る間も惜しんで……」
「ポストばっかり覗いているからです。御師様がお返事に命をかけているのは知っていますが、キリキリ働いて下さい」
「お仕事したくないでござる」
瞬間、依代の手が一閃した。
かわせたのは奇跡に近い。
「ちっ」
「ちっていうな。タダでさえ呪われた血筋なんだよ。そんなもので毛根どころか頭蓋骨ごとやられてたまるか」
男は、背後に依代の視線をビシバシと感じながら渋々筆をとった。
生きた心地はしなかった。
【完】
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