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「いやー、ひどい目に遭った。尻が横に割れたかと思った」
変な仕掛けのせいで盛大に尻餅をついたが、それで済んだのは幸いだったといえる。
「さ、気を取り直してバリバリ仕事するぞ!」
男はわざとらしく大声を張り上げた。
そこら中の空気が震えた気がしたが、気のせいだろう。
ごす。
足元でおかしな音がした。
男は、慌てて飛び退く。
「危ない危ない、今度は何だ」
言い終わらないうちに、畳が跳ね上がった。
のみならず、畳に大穴が空いている。
「アホなおっさん執事、和貴 螺斑と申します。ご用があれば何でもお申し付けを」
完璧な執事の衣装に身を包んだ和貴 螺斑がそこに立っていた。
夢だ、これはさすがに夢に違いないと男は思う。
「何でも申し付けていい?」
「ええ。わたくしは108の資格を持っております。それをもってすれば不可能はございません」
「108の煩悩じゃなく?そしたらその畳直しといてくれる?また落ちるのはごめんだから」
和貴 螺斑は、持っていた鞄の中から素早く道具を引っ張り出した。
どうやって収納されていたのかは謎である。
きゅっきゅと小気味良い音を立てて、和貴 螺斑は畳を修復していった。
男はその技に感嘆しながら、始めから普通に登場してくれたら良かったのに、とはいわないことにした。
【完】
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