【流星(ながれ ほし)の場合】

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「うおっ!」 男は本気で飛び退った。 物置代わりの屋根裏部屋に、半裸靴下の女が体育座りで待機していたからだ。 滅多にひかない風邪はインフルエンザと診断され、10日程も寝込んだ後だ。 それだけの動作にも息が切れる。 「腐腐腐、もうすっかり良いようでつ鵺。さ、そこに横たわって」 「横たわるのには飽きた。と言うか、流さん、何でこんな所に」 近所のおさなづまの一人、流星(ながれ ほし)の侵入経路は不明だ。 どんなに戸締まりをしても、大抵はこうしていつの間にか入り込まれてしまう。 「寝込んでるって聞いたもんだから、お粥を持ってきた」 流星は美しいおさなづまだが、声だけ聞くとイケメンである。 ドン。 男は壁際に追い詰められた。 「はいあ~ん」 有無を言わせぬ壁ドンあ~ん。 流星の手に握られた椀には、底が見えないほど真っ黒なドロドロが潜んでいる。 「むにゃふぐげぺっ」 墨は男の生活の一部だが、まさかこうやって一心同体になれるとは思ってもいなかった。 「腐、我が流派に伝わる暗黒かユウの薬効恐るべし。せっかくお見舞いを持ってきたのに」 腐笑いを振りまきながら流星が去って行った後には、気を失った男と、戸口に貼られた等身大超イケメン書っ家ーポスターが残された。 【完】
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