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静かな場所に建っている家だが、先程からどうも賑やかだ。
音は庭から聞こえてくる。
「ウィ~ンって何だよ、朝から結構な騒音だぞ……」
男は、最近ではその破られ易さから紙と呼ばれている窓を開けた。
「む、1.7m級巨人」
ここを訪れる客は、潜む為か比較的コンパクト。
その中では大柄な方だろう。
まだごく若く、少年めいた姿で浅葱 桜霞だとすぐわかる。
音の原因は草刈り機。
ぼうぼうだった庭は、すっかりさっぱりしている。
「おはよう浅葱さん。庭の手入れはありがたいけど、これって……」
「眺望満点、侵入し放題です」
(部屋の中にばかり気を取られていたら外から崩されてたー)
この様子だと、抜け穴や落とし穴もきっとある。
「浅葱さん、どうかその辺で……」
「遠慮は要りません、庭は任せて下さい」
浅葱 桜霞は、美声を惜しみなく轟かせながら、庭を丸坊主にしていく。
次々と繰り出される戦後の懐かしのメロディー。
(絶対に年齢詐称だよ)
明日からは庭を歩くのも命懸けだ。
【完】
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